老いの何だか切ない日々のポエム画廊喫茶

朝起きて今日一日が始まるコーヒーを淹れるときめき。残りの人生、毎日全力投球。

~回想~京都での生活③


京友禅は分業になっていて、10ほどに分かれた、それぞれ専門の仕事があります。
弟子になって初めの頃は、その工程を知るためもあって、「外回り」の仕事をします。
色挿しを終えた反物は、まず、挿した色を定着させるために蒸気で蒸します。その専門の「蒸し屋」さんがあります。個人の、蒸しだけで生計を立ててる家もありますが、蒸した後、糸目糊を落とさねばならないので、それをやってくれる専門の工場もあります。
「引き染め屋」さんは、反物に刷毛で色を染める仕事です。
一反を張って染めるわけですから、それだけの広さが要ります。その張られたものが一つ二つではないから、広さがそれなりに必要になります。ときどき、先生が工房で染めることがあったけど、その時は端を、蝋を扱う部屋の窓から、ベランダに出てその柵までをロープを張ってから刷毛で引く染料の垂れを受けるため、新聞紙を広げて、先生が染めていました。タマネギの外側の茶色い皮の部分を集めておいて、たくさん溜めて、それを鍋で煎じるのです。すると、茶色の濃い色が採れます。
それを使うのです。刷毛で染めてから、乾いたら「ミョウバン」を水で溶いたものを刷毛で塗って定着させるのです。黄色の濃い色に染まります。金茶色と言うのでしょうか。
クチナシの実で染めてるのも見たことがあります。植物染料の材料屋に売られています。大量に買ってきて、同じくそれを鍋で煎じて色を抽出します。煎じてる時、漢方の独特な匂いがしていました。クチナシは、タマネギより薄い、きれいな黄色に染まっていました。濃くしようとすれば引く(塗る)回数を重ねれば濃くなり、深みが出ます。
紅茶も、染められます。コーヒーでも。お茶も。野の草もドングリも。
自分で、コースター用の白生地を買って染めてみたことがあります。定着液はミョウバンを使います。型紙で何か図案を彫って、そこへ糊伏せをして染めると、オリジナルのものが作れます。


分業の中に「金屋さん」と呼ばれてる業種があります。
加賀友禅は金は使わないようですが、京友禅は、昔から派手さを好んだようです。それで金加工をする専門の業種も出来たのだと思います。
初めて、外回りで反物に加工してもらう先生からの言いつけで訪ねて行って、初めて叱られた苦い思い出です。
それは、50代くらいの主人が一人で仕事している家でした。
玄関を開けて「ごめんください。」と呼んだのですが、出て来ないので何度も言って、出て来るのを待ってたからです。
待っててはいけなかったのです。すぐに上がって行って、直接に仕事している部屋に「まいど。」と訪ねるのがこの仕事の世界の常識だったのです。