老いの何だか切ない日々のポエム画廊喫茶

朝起きて今日一日が始まるコーヒーを淹れるときめき。残りの人生、毎日全力投球。

昭和のおじさん


自転車でアイスキャンデー売りに来たチリンチリンと鐘の懐かし



雷の怖くもありて懐かしい仁王立ちする空で親父が


子供の頃、夏になると自転車の荷台に木の箱載せて、アイスキャンデーを売りに来るおじさんがいました。
チリンチリンと鐘を鳴らして麦わら帽子の日に焼けたおじさんがやって来ます。麦わら帽子もだいぶ褪せていました。
荷台の箱は頑丈にこしらえていて、年季で黒くなっていました。
その蓋も頑丈で、寸分の狂いなくきっちり締まっていたのでしょう。そうでなければ真夏ですからアイスキャンデーが溶けてしまいます。
僕らは握りしめて来た5円玉をおじさんに渡すと、背伸びして開けた箱を覗き込みます。
涼し気な冷気の中に、赤、青、黄色のアイスキャンデーが、まるで僕らを待っててくれてたように見えました。
僕らは好きな色を言って、アイスキャンデーをおじさんから手渡してもらいます。今の「ガリガリ君」なんか比べ物になりません。それはそれは、硬い硬い、カチカチのアイスキャンデーでしたから。
舌を見せ合いながら少しずつ齧ります。赤く染まった舌や青く染まった舌を「べー」と出して。用心して大事に大事に齧ります。一滴も落とさないように気をつけてすすります。
でも、まだ齧りかけたばかりのをうっかり、大きく欠かしてしまうことがたまにありました。それは「あっ!」と言う間でした。
落した子は、もう半べそです。
僕らは同情しつつ、その落ちた土まみれのカケラが溶けて行くのを黙って見ていました。
おじさんはまた隣の村へと鐘を鳴らしながら売りに行くのです。




『夏休み』吉田拓郎  姉さん先生 もういない・・・