老いの何だか切ない日々のポエム画廊喫茶

朝起きて今日一日が始まるコーヒーを淹れるときめき。残りの人生、毎日全力投球。

わすれないでねこ

公園に捨てられた猫でした
真っ白だった毛並も
いつしか薄汚れてしまいました


ある日 記憶を辿ってみようと
飼われていた家を探しに出かけました
だけど 公園の入り口から先は
全くわかりません
飼い主の匂いも全くしません


それでも思う方向に
道路を渡って歩き続けました
お腹を空かして歩き続けました
やせこけて もうふらふらでした
ふらふらのまま どこかの
庭に迷い込みました


すると
「まあ なんて痩せた猫でしょう」
「お腹を空かしているのね」
と おばあさんが
かつお節をふりかけて
ご飯を持ってきてくれました
猫はよほど腹ペコだったのでしょう
鼻を鳴らして夢中で平らげました


そして お腹がふくれると
眠くなったのか
縁側で ぐっすりと眠りました



その様子を見ていたおばあさんは
「もうこのまま ここに居ておくれ」
と 眠ってる背中に声をかけました


だけど 眠りから覚めると
猫は お礼を言うように
振り向きながら出て行きました
その時その背中に おばあさんは
ちょっと驚きました
「目の錯覚だろうか」
と 目をゴシゴシしました
それは 薄汚れていた身体が
水色や桃色の小さな花に見えたのです



暑かった夏も過ぎ
秋が来ると
あっという間に冬が来ました
積もった雪に 猫を思い出しました
「あの猫はまだ 薄汚れたままだろうか」
「それとも誰かに飼われて真っ白になってるだろうか…」


やがて 春が来ました
庭にも どこからか飛んで来た
桜の花びらが舞っていました

そうして季節が落ち着いたある日
植えたはずのない花が
庭にたくさん咲き始めました
小さな水色や桃色の花です

それは 忘れな草の花でした
おばあさんは あの時
振り向きながら去って行った
あの猫を 思い出していました