老いの何だか切ない日々のポエム画廊喫茶

朝起きて今日一日が始まるコーヒーを淹れるときめき。残りの人生、毎日全力投球。

ブラッシングせし犬のつや春隣


春を待つ犬の毛並みの艶々と


 先日、こんな夢を見ました。
何故かアメリカに居てバイトをしているのです。
そのバイトの内容が実に変っていました。
老犬の思い出にと、私と老犬とツーショットの写真を、老犬の主人が写すわけです。夫婦であったり独り身であったりしますが何れも年配者や老人です。
ここまでだと、特に変わってないと思うでしょう。ただ、バイトの私と何故いっしょのところなのか?と思うでしょう。
そこが問題なのです。
犬用の小さなグローブをつけた老犬と、私は大きなグローブをつけてボクシングをするのです。そして犬のパンチを受けて私が負けるところを写したいわけです。大げさに倒れてあげるのです。
水色のグローブを前足につけて犬が立ち上がります。その前に、顔を突きだす格好で誘うわけです。「ほーらほら。どうした、へなちょこパンチめ。そんなパンチじゃかすりもしないぞ。」とか言って変顔したりして誘うわけです。
するとパンパンとパンチが飛んで来ます。当たってもたいして痛くもないのです。それをオーバーに、「うわあっ!」「うぐぐっ!」と、効いたような声を上げて白目を剥いて倒れてあげるのです。
主人はもう大喜びするのです。飼い犬の名前を呼びながら大はしゃぎです。抱き締め、犬の手を取って踊らんばかりです。
「ご苦労様です。」と報酬を受け取ってまた次の家へと向かうのです。
さすがにアメリカは広いと思いました。感覚も感性もまるで違ういろんな人間が居るものだと。
 最後の依頼人は大変なお金持ちで、報酬をズボン、上着、胸のポケットに詰め込んでも入りきれないほどたっぷりくれました。帽子の中にもぎゅうぎゅう入れてどうにか被れたほどです。
私の暮してたアパートにわざわざ高級なピカピカのアメ車で迎えに来てくれたのです。
着いたお家はまた広い庭で、そこに老いたゴールデンレトリバーが待っていました。
私を見るとシッポを振って駆け寄って来ました。まるで旧友再会のように抱き合っていました。でも、いつまでもそうしていられません。カメラを持ってお婆さんが待ち構えています。
スーツ姿のお爺さんが愛犬にグローブをつけます。私もカバンからグローブを取り出すと装着します。
そうして試合が始まりました。
ゴールデンレトリバーは、ただ嬉しくて私に駆け寄って来るだけです。私の肩にグローブをつけた前足を載せかけました。その時、私は横を向いてグローブに顎を突き出しました。そして強烈なアッパーカットを受けたように大げさな声を上げて芝生に大の字で伸びたフリをしました。
「やったー!ブラボー!」と老夫婦はカメラを持ったまま抱き合っていました。
ゴールデンレトリバーは、目を瞑って上向き、伸びたフリをしてる私の顔を覗き込むと、心配そうな声で鳴くのでした。私はその声にすぐ目を開けると抱き締めました。「何でもないよ。」と抱き締めました。すると安心した喜びの顔でシッポを盛んに振って私を力強く抱いて来るのでした。私は水色のグローブを外してやり、また抱き締めました。
 やがてお別れです。新たな旅へと歩き始めます。
田舎道を歩いて行く私に、老夫婦とゴールデンレトリバーが見送ってくれます。手を振りながら、鳴きながら。
いえ、泣いていました。ゴールデンレトリバーのその声は。
私も泣けて仕方ありませんでした。

春を待つちぐはぐのままの靴下


  思議なる絵本の夢や春隣


 3,4日前に不思議な絵本の夢を見ました。
それはどこかのローカル電車に乗っていた時のことです。
向いの座席に、お爺さんと4,5歳の孫らしき男の子が座りました。
男の子は、買ってもらったばかりのような、まだ包装紙に包まれた四角い大きな硬い本らしきものを膝に乗せて両腕で抱えていました。
「おじいちゃん、開けて見ていい?」
もう嬉しくて嬉しくて、早く見たいとお爺さんに訊きます。
「ああ。開けてごらん。わしが開けてあげよう。」
お爺さんが、止めてあるテープを剥がして袋から取り出してあげました。
「わーい。」
それは大きな絵本でした。白い表紙に、水色の文字で「白い絵本」と書かれてありました。
男の子はワクワクしながら捲ってみました。
すると、開いたページは真っ白でした。急いで次のページを開いてみました。するとそのページも真っ白です。「あれっ?」と、ベソをかきながら次のページを捲りましたが、そこも真っ白でした。次のページも次のページも真っ白のままです。
男の子は泣きだしそうになりながらお爺さんの顔に訴えました。
するとお爺さんはニコニコしながら、「かーくん、白いページに、かーくんの好きなお花を思い浮かべてごらん。」と言いました。
かーくんは真っ白なページに、大好きなチューリップを思い浮かべました。
するとどうでしょう。真っ白だったページいっぱいにチューリップの花の絵が生き生きと現れたのです。それは本物のように、お日様の下で楽しそうに風に揺れているのです。赤、黄色、桃色、オレンジ色に白と、色とりどりです。
真っ白だったページが、次のページも次のページもチューリップの絵になっています。
そしてさらに不思議なことが起きました。
「かーくん、窓を見てごらん。」
「うわあー!」
窓を見ると、木のように大きなチューリップが手を振るように揺れていました。前も後ろもです。大きなチューリップが線路沿いにびっしりとかーくんの乗ってる電車を見送っていたのです。
ページを捲ってると電車の中にもチューリップが咲いてるようです。大好きなチューリップに包まれて進んで行きます。
チューリップもみんな楽しそうです。
「チューリップ チュッチュッチュッ チューリップ」
思いつきのまま歌います。もう床をゴロゴロしたいほど楽しくて仕方ありません。


 やがて、降りる駅に着きました。
「かーくん、かーくん、降りるよ。」
「うーん。」
うつらうつらしていたかーくんは、眠そうな声で本を閉じながら返事をしました。
それから、伸ばしてるお爺さんの手を握りました。
そして床に降りて振り向くと、不思議そうに「あれれ?」とつぶやきながら窓を見ました。
右も左も、両サイドの窓にはもうチューリップはありませんでした。
かーくんは、「夢を見てたのかな?」と、降りて本を開いて見ました。
すると、チューリップの絵はどこにもなくて、ページはみんな真っ白でした。
私も不思議に思いました。
たしかに私も見ていましたから。