老いの何だか切ない日々のポエム画廊喫茶

朝起きて今日一日が始まるコーヒーを淹れるときめき。残りの人生、毎日全力投球。

ゆく春や切なく転ぶ部屋の中

詩 「ちゃお」


二日前の晩
塩かげんまちがえたスパゲティを
食べ過ぎて 夜ふけに水を飲みに
起きた 月明かりの台所で
ぼくを見つけて なぜか
ぽかーんと 見ていましたね


あの夜
ぼくも水を飲みに来て
窓から月をながめていたのです


いつでもにげる用意をしているぼくに
 ほんとうに ゴキブリなのかい
と のぞきこみ
 しょっかくは弦のようだね
 その体は色は まるで小さなバイオリンのようだ
と ほめてくれました
そして お酒くさいため息をつきながら
こうも おっしゃいましたよね
 きみたちが もしも
 きれいな声で鳴けたなら
 これほどまでにくまれはしないだろうに 
と それから
 おやすみなさい ゴキブリンちゃん
と 言ってくれましたよね



それが今
机に積み上げてる本を なぎたおし
いれたてのコーヒーを ひっくりかえし
目をつり上げて
ぼくを 追いかけて来る!
ああ 人間の言うことなんかあてにならない
信用してはいけないと
先祖だいだい伝わってることは
本当だった あれは
人間の 気まぐれだったんだ


とうとう かべを背にしたぼくに
情けようしゃなく
殺虫剤の 引き金に
指を当てるのですね


今さら泣きごとを言ったって
通じないことはわかっているけど
ぼくは あの夜の
やさしい目を
いつまでも 忘れません
でも 今の
勝利目前として ほくそ笑むその顔は
とてもみにくいと思います 
あ ますます!


でも まって
ひとつだけ忘れてるみたい


それは
ほらね ぼくが
飛べるってことですよ
そんなに大声だして おどろかなくても
頭ふりみだしてうろたえなくても
人間げない
ちょっと頭に とまったのは
ほんの お別れの
あいさつですよ
それじゃ 開いてる窓から


ちゃお♪