老いの何だか切ない日々のポエム画廊喫茶

朝起きて今日一日が始まるコーヒーを淹れるときめき。残りの人生、毎日全力投球。

喫茶店の想い出その3

木造の 二階にあった喫茶店
トリコロールは 階段を上がって
ドアを開けたすぐ右にあった二人掛け
テーブル一つのスペースが
僕のお気に入りであった
椅子の後ろにステレオが置かれていた
昔の 大きな木目調のステレオだ


カウンター席は 入って前に進んだ左に
5席か6席くらいあったと思う
ドアを開けて 右側のボックスに行く時に
チラッと見たくらいだけど
4人掛けテーブル席も そのすぐ後ろに
2つほどあったが座ったことはない
カウンターの中にはおばあさんが入っていて
忙しい時には娘も手伝っていた
ランチ時に 忙しそうに働く横顔を見かけた
普段は娘だけがコーヒーを運んでいた
娘はまだ結婚してるのかしていないのか
30歳前に思えた
おばあさんも おばあさんと言うには若かった
僕がお昼を食べていると お茶を運んでくれたことがある
昆布茶の時もあって嬉しかった
僕は喫茶店という場所を
今なら当たり前にわきまえるが
その当時 僕は何も知らなかった
それで お昼をテーブルに広げて食べていた
母が作ってくれた 弁当を
娘もおばあさんも何も言わなかった
どう思っていたのだろうかと 今も思い出す
一度も何も言われたことがなかった


僕は会社をサボると こうしていつも
トリコロールで半日を過ごした
帰るときにレジの傍に置いてある
燐寸を1つ貰って帰った
トリコロールの燐寸は
長方形で軸を取り出す面が真四角で
燐寸の軸は真っ黒
デザインはもちろんトリコロール
この洒落た燐寸が好きで1つ1つ
行く度に増えて行くのも楽しみだった


娘に声をかけたのは
燐寸を貰う時と 今かかってる
レコードの曲名を聴く時くらいだったが
僕はいつしか 淡い恋心を抱くようになっていた
それが ある日もろくも壊れた
鈍い僕はもっと早く気づくべきだった
ある日 よくよく見て気がついた
指に 結婚指輪を見たのだった


僕の淡い恋は終わり
トリコロールには もう二度と
足が向くことはなかった