老いの何だか切ない日々のポエム画廊喫茶

朝起きて今日一日が始まるコーヒーを淹れるときめき。残りの人生、毎日全力投球。

喫茶店の想い出その5


永島慎二の漫画に出て来る「ぽえむ」と同じ名前の喫茶店
たぶん マスターも永島慎二のフアンだったのだと思う
カウンター席の後ろにあった本棚に
永島慎二の漫画が連載されてたガロかCOMがあったから
それに 僕の格好に驚いた顔をしたことがあるから


それは僕がある秋の日 永島慎二の格好を真似て店に行ったのだ
ハンチング帽子に 薄い茶のサングラスをかけて
そのサングラスの楕円形がかった形はそっくりではなかったが
そこそこ似た安いのを商店街で探して買ったものだ
もっと似たコートであったなら完璧であったろう


ドアを開けてカウンター席に向かう僕
「いらっしゃいませ」
その声が上ずった
マスターが 一瞬「えっ?!」と驚く表情をした
僕は してやったり
ほくそ笑んだ目元を
もとにゆっくり戻すように
サングラスを外してカウンターに置いた


いつもの香り高いコーヒーが目の前に運ばれて来た
僕は得意げに 満足しきった顔で口へ運ぶ
マスターの顔をもう一度見る
他の客に忙しそうに動き回るその顔には
もうすっかり驚いた表情は消えていた
そして どこか落胆の
「なーんだ」といった表情を残していた


はたと気づいた
それは 僕は永島慎二のつもりであったが
トレードマークの 肝心な
髭が 僕はまだ生やして無かったのだ
急に恥ずかしさを覚えた僕は
再び「ぽえむ」に行くことは もうしなかった